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「おい!」

私の体が大きく揺さぶられる。

ぼんやりとした頭の中で、誰かの声が耳元で聞こえた。

ゆっくりと瞼を開くと目の前に……

「きゃー!」

思わず大きな声で自分の顔を両手で塞いだ。

だって、錦小路社長の顔が至近距離にあったんだもの!

「そこまで驚かなくたっていいだろ」

彼は片方の眉を上げ、腕を組んだ。

「それにしてもお前はよく寝る奴だな。ホテルに着いたぞ」

既に開いているタクシーの後部扉から彼が先に降り、慌てて私も続く。

目の前には明るい日差しと確か昨日荷物を置きに来たレトロな雰囲気の高級ホテルが聳え立っていた。

私、結局また寝ていたんだ。

ってことは、また彼に寝顔見られてた??

ほんとに情けないったら。

彼も寝ていたはずなのに、いつ起きたのかな?

寝ていたとは思えないほど、しゃんと背筋を伸ばして歩く彼の後ろを着いていく。

ホテルのロビーでチェックインの手続きを済ませ、部屋の鍵を渡された。

まぁ、当然別々の部屋なわけで。

いやいや、同じ部屋がよかったってわけではなく、一人で海外の高級ホテルに泊まったことがないから落ち着かないというか。

「俺の部屋は一つ飛ばした横の803号室だ。とりあえず、少し休憩してエレベーターの前に十二時に」

彼はクールに用件だけ私に告げると、自分の部屋に入っていった。