急に静かになった彼の方をちらっと盗み見ると、座席にもたれたままややうつむいた格好で目をつむっていた。

ただ目をつむってるだけじゃなくてその無防備な横顔は、ひょっとして眠ってる?

そういえば、昨晩も寝ていないと言ってたよね。

きれいな彼の横顔を見つめながら、胸が熱くなる。

感じたことのない気持ち。

だけどとても満ち足りた幸せな気持ち。

時々眉をひそめ、首の向きを変える彼は今どんな夢を見ているんだろう。

きっとこの人は自分のこと以上に会社や社員が大切で、そのために自分自身を守ろうとしてるんだ。ずっと張りつめた中で神経を尖らせて生きてる。

誰かが彼のことを守らない限り、きっとこの眉間の皺はいつまでも刻まれたままのような気がした。

私がもっと強くて賢い人間だったら、少しは彼のために何かできるのかな。

彼がこの数日、私を守って、ここまで導いてくれたみたいに。

なんて、彼にとっちゃ余計なお世話だよね。

窓に目を向けると、小さな川にかかる橋の向こうに三角屋根のカラフルな家々が立ち並び学校に向かう子供たちが楽し気に橋の上を走っていくのが見えた。

この場所にはゆったりとした時間が流れている。

都会であくせく速足で職場に向かっている自分がまるで遠い昔のことのように思えてしまうほど、穏やかな空気が自分を少しずつ変えていく。

ここに来たことに、深い意味があるような。

彼と出会ったこと自体が偶然とは思えない……なんてこととても彼には言えないけれど。