１２．更なる展開

ほどなくして渡辺さんが帰宅する。

誠くんは安心したのか、渡辺さんに抱き上げられた瞬間泣き出し、その首にしっかり抱きついて離れようとしなかった。

きっとずっと一人で我慢していたんだろう。

そんな健気な様子に私まで泣きそうになる。

そして、そんな風に甘えたい相手に素直に甘えられる誠くんを少し羨ましいとも思っていた。

咲さんは無事元気な男の赤ちゃんを産み、明日まで入院。

ベルギーでは、日本と違って特に出産時に問題がなければすぐに退院しなければならないとのこと。

「日本は過保護すぎるのかもしれないが、日本で育った俺たちにはなかなかなじめない習慣だよ」

渡辺さんはそう言って苦笑した。

「咲さんのお料理は全ておいしく頂きました。本当に大変な時に私まで色々とありがとうございました」

玄関で見送ってくれた渡辺さんに礼を言い頭を下げる。

「もう帰っちゃうの？」

ようやく涙が渇いた誠くんが目をこすりながら彼と私の顔を交互に見つめている。

「ああ、また遊ぼうな」

彼が誠くんの頭を撫でながらそう言うと、渡辺さんはニヤニヤと彼の顔を覗き込む。

「またいつでも来ればいい。二・人・で」

そんな風に冷やかされた彼がどんな返答をするのかドキドキして様子を伺っていると、特に表情を変えることもなく冷静な口調で「今度は一人でゆっくり来させてもらうよ」なんて返していた。

はぁ。

もちろん、ここに私が訪れるなんてことは、彼と恋人にならない限りあり得ないだろう。

気を取り直して……

もう二度と会うことはないかもしれない渡辺さんにあらためて感謝を伝える。

「とても楽しかったです。咲さんにはくれぐれもよろしくお伝えください」

「今回はバタバタ落ち着かなくて申し訳なかったね。こんな田舎だけど、是非いつでも遊びに来て。咲はもっと都ちゃんとしゃべりたかったらしいよ。礼とのこと」

「俺とのことってなんだよ？」

彼は怪訝な表情で意味深な笑みを湛える渡辺さんを軽く睨んだ。