そのあどけない寝顔に思わず苦笑する。

「藤都」

小さく呼んでみたが、彼女の閉じられた瞼はピクリともしない。

参ったな。

俺は起こさないように彼女を抱き上げ、ソファーに寝かせた。

彼女のまつ毛はとても長く、夢を見ているのか時々震えている。

そして、ピンク色の小さな唇はすっかり安心しきったように僅かに開いていていた。

よく見たら、かわいい顔してるじゃないか?

いやいや俺は何を考えている。必死に抑え込もうとするのに、俺の衝動は止まらない。

彼女の白く柔らかい頬にそっと手を当てた。

ひんやりとした頬は俺の手の平にぴとっとくっつく。

彼女の顔に自分の顔を近づけていく。

体中が熱くなり大きく波打つ自分の鼓動を全身で感じていた。

俺は今何をしようとしてる?この無防備な彼女に。

唇と唇が触れそうになった時、彼女の体がピクンと動いたことでようやく我に返る。

俺は彼女から離れ立ち上がると、ソファーの横にあった毛布を寝ている彼女の上にかける。

未だに気持ちよさそうに寝ている藤都を見つめながら、「朝まで寝れそうにないな」と呟き前髪をかき上げた。

あの大きなネコみたいな瞳で俺を見つめ、まっすぐにこちらに飛び込んできたあいつを、恐らく俺は最初から嫌いじゃなかった。

昔の俺を呼び覚まそうとするような言動も、不器用にリスクを招いてしまう性格も、必死に謝ったり、でも鋭い勘で俺が意表を突かれるようなことを言ったりする藤都は、すっかり俺のこれまでのリスク回避のスタイルを脅かすほどの存在になっている。

認めなくなかったが、ここまできたら認めざるを得なかった。

俺としたことがあんな年下の小娘に惹かれるなんて。

キッチンに置いてあるミネラルウォーターを空になったグラスに入れる。

これからどうしたものか。

グラスに入れた水を一気に飲み干した。

体中にまだ彼女を抱きしめた感触が残っていて、胸の奥のどくどくと熱い鼓動は治まる気配がない。