こんなにも勝手な行動で皆に心配をかけている不甲斐ない私を、編集長も坂東さんも温かく送り出し、待っていてくれている。

これ以上迷惑はかけられない。

彼にも、そして私の大事なチームのためにも。

両者に軍配が上がるようにするために私ができることを今日から探っていかなくちゃ。

そんな難しいこと私にできるのだろうか。いや、しなくちゃならないんだ。

久々に胸の内から熱い思いが沸き上がってくるのを感じた。

電話が終わったことに気づいた彼が私に視線を向け、全てお見通しかのように軽く口元を緩める。

「お前も早く食べろ。せっかく温めたロールパンが冷めてしまう」

「はい、今から頂きます!」

「お姉ちゃん!このパン、ママが作ったんだ。おいしいよ」

私は椅子を引き座ると、嬉しそうにロールパンを差し出してきた誠くんから受け取った。

「うん。本当にいい香りがしておいしそう。頂きます!」

そう言ってパンをかじると、香ばしくてほんのり柔らかい甘みが口から鼻に抜けていく。

咲さんの優しくて愛情たっぷりの味がした。

「あれ?お姉ちゃん泣いてるの?」

なぜだか潤みだした目頭を慌てて右手の人差し指で押さえ、誠くんに笑顔を向ける。

「ううん、大丈夫。あまりにもおいしいからちょっと感動しちゃった」

「あはは、変なのー!」

誠くんは無邪気に彼と目を合わせて笑った。

窓から明るい日ざしが差し込むこのダイニングの光景が愛おしく感じる。こんな感覚も初めてだった。

誰かを好きになるって、幸せだけれどこんなにも胸が苦しい。

きっと両想いだったら苦しいことはないのかもしれないんだろうけど。

って、何おセンチなこと考えてるの?私ってば、まさか……まさか彼のこと?

胸の奥が、なかなか同意できない私の気持ちを代弁するかのように激しく脈打っている。

誠くんに微笑む彼の横顔を見つめながら、少し冷めてしまったコーヒーを口に含んだ。