「はい、藤です」

『そちらは「おはよう」かしらね?』

「今回は、本当に申し訳ありません!勝手な真似してしまって!」

私はスマホの向こうにいつものようにシャキッと立っているであろう山根さんに頭を下げた。

『本当だわ。困った時は一人で動かないようにあれほど忠告していたのに』

「はい、重々理解していたはずなのに、このチャンスを逃しちゃいけないと思ったらこんな場所まで来てしまいました」

そう返した瞬間、電話の向こうで山根さんが大きな声で笑った。

『都はさすが私が見込んだだけのことはあるわ。確かにある意味危険を伴う取材依頼だけれど、私が彼の人物像を知る限り無茶なことをする人間ではないはず。あなたが危険にさらされることはないとは思うけれど、まさか彼と一緒にベルギーにまで行っちゃうなんてね。怒りを通り越してあなたのその無鉄砲なまでの行動力に笑っちゃったわ』

無茶なことする人間ではないか……。

リスク回避命だもんね。そこは編集長も知ってたんだ。

とりあえず、笑ってくれた山根さんに緊張感が幾分緩む。

『とりあえず元気なのね?何も問題はない?』

「はい、特に今のところは大丈夫です」

『そう、ならよかった。くれぐれも無茶だけはしないで。そこまで同行させてもらったら、彼の素顔が少しでも見えたんじゃない?それだけでも収穫だわ』

「そうですね……」

『あら、いつもの威勢はどこいったの?まさか何かトラブルでも?』

トラブルってほどでもないんだけど、初めてのことだらけで私の気持ちがかなり揺れ動いているのは確かだ。相変わらず山根さんの洞察力には感心させられる。

「トラブルってほどのことは何もありません。ちょっと疲れているだけかな……」

『そう。確かにあなたも何の心の準備もないままベルギーにまで着いていっちゃったんだものね。くれぐれも体だけは大事にして無理はしないで』

「はい。ありがとうございます」

編集長にもいらない心配かけちゃってるな。

こういう事が、私のリスクマネジメントのなさによる弊害なんだろう。