予想外の優しい彼の表情に動揺する。

私にはもっと冷たくて、意地悪で、突き放したような視線を向けてもらわないと、どうしていいかわからなくなる。

あんな風に抱きしめられたことも早く忘れなくちゃならないっていうのに。

彼も彼だ。

簡単に泣いてる女性を抱きしめてくるなんて。いくら私を女性に見ていないとしたって迂闊すぎる。

あんなことされたら、男性に免疫のない私みたいな女性には誤解を与えるもとだ。

誤解が誤解を生んで一方的な恋に転がりかねない。

恋なんて……取材相手に恋なんて絶対御法度なんだから。

ましてや、彼はどう考えたって私とは到底釣り合うはずもない相手だ。

それに……

彼には夢にまで見るくらい大切な女性がいるわけだし……。

心拍数が上がっていく自分の気持ちをなんとか鎮めながらコーヒーを一口飲むと尋ねた。

「社長は少しはお休みになられましたか?」

「……いや」

彼は私から視線を外し、再びカップに口をつけた。

「もしかして一睡もされてない……とか?」

私が気を失うように寝てしまっていたというのに!

「二、三日、仕事で寝ないこともあるから特に問題ない」

「私は徹夜ができないタイプなので、寝ないなんて考えられません」

「そうだろうな。あの状況であれだけ寝れるとは俺には逆に信じられない」

彼はようやくいつもの意地悪な顔で笑っていたけれど、そんなこと言われたら恥ずかしくて隠そうと思っても顔が熱くなっていく。

「こちらに来る前からずっと寝不足だったからです!」

熱く火照っていた顔を彼からプイと背けた。

「あれー?パパとママはぁ?」

その時、リビングの向こうからペタペタと裸足で歩いてきたのは誠くんだった。

「おっ。おはよう、誠。よく寝れたか?」

彼は私に意味深な笑みを向けると、近づいてきた誠くんをさっと抱き上げた。