後藤くんは男の子だから。
それに、中学生と高校生のお兄ちゃんがいるから、少し乱暴な言い方だったけどきっと悪気があるわけじゃない。
怖いなんて思っちゃいけない。
お母さんも咲希ちゃんも「笑顔が一番だよ」と、言ってくれたから。
何度も繰り返し言い聞かせた。
それでも、毎日挨拶しても、後藤くんは私を視界の隅に入れるだけ。
「……後藤くんって、柔道習ってるの?」
話題を探して何度声をかけても、私を見て口をきいてはくれなかった。
女子が苦手だったり、好きじゃないのかもしれない。
そう考えることもあったけど、私以外の女子とは休み時間に楽しそうに話していた。
そして、それはある日突然やってきた。
「……後藤くん。おはよう」
今日は、答えてくれるだろうか。
ドキドキしながら後藤くんを見ると、しっかりと私を見てくれていた。
視界の隅ではなく、真っ直ぐに。
やった……!
それが嬉しくて、私はそのまま笑顔で続けた。