「ううん。プールに落ちたのは、私の不注意だもん……」
それに馬面の絵を見た時だって、笑いを堪えきれなかったのも自己責任だ。
今度からは、膝をつねって耐えようと決めている。
「でもよかった。葉月くんが風邪引かなくて」
本音をもらすと、目を丸くした葉月くんの口から小さな息がもれる。
「……変な奴。隣の席だからって」
これ以上風邪ながびいたらどうすんだよ、と。
不器用な言い方だけど、今は葉月くんが本当は優しいって知ってるよ。
「……隣の席、だからだよ?」
今度は、葉月くんが不思議そうに顔を傾けて私の答えを待っていた。
「私ね……小学校の時から、隣の席の男子と仲良くなるのに失敗して……すごく嫌われちゃったこともあって……」
ずっと思い出さないようにしてきた。
忘れたくて、消したくて、押し込めた過去の蓋を開ける。
記憶をなぞるように、そっと口を開いた。