本当の事はまだ隠しておこう。

「そうなんですか!わぁ、マネージャーがそんな事を言ってくれたなんて、今更ながら嬉しいですね。……所で一颯さん、顔が赤くなってますよ?何で?」

「……別に、何でもない」

恵里奈は不思議そうな顔をしているが、サラダとパスタが届いた事により、これ以上の詮索をされなくて済んだ。

俺の事を『一颯さん』と呼ぶのもお前しか居ない。今まで生きてきた中で合鍵を渡したのも、食事を作って帰りを待っててくれる彼女もお前だけなんだ。

社会人になってからは割り切った関係はあっても、女は面倒だと思っていて特定の彼女は作らなかった。

お見合いの話が来ても、結婚なんて更々考えてなかった。

恵里奈と出会って、一緒に出かけたいとか、一生大切にしたいと思ったのも初めてなんだ。恵里奈は『一颯さんとの初めてが嬉しい』と良く言っているけれど、もうとっくに初めてを捧げているんだよ。本人は知らないだろうけれど……。

「変な一颯さん……。もしかして、好みの女性が居たりしましたか?」

どうしてそうなる?

「目の前にだけ、居るよ」

「え……?……パ、パスタ冷めちゃうから早く食べましょ!」

目を見て小声で答えると、今度は恵里奈が頬を赤くして目線を外した。恵里奈は本当に見てて飽きない。

以前、高見沢に恵里奈と一緒の公休日を月に一回はしてくれと頼んだ。その時、職権乱用だと恵里奈から言われたが一番の職権乱用は……

お前の事を私欲により、リゾートホテルから引き抜いた事だろうな。それによって辛い立場の時もあったが、今は彼女なりに頑張ってくれていて、ホテルにとってもなくてはならない存在だ。

そして俺にとっても、かけがえのない存在だから、お前の笑顔を曇らせないように日々、努力する事とする。

【END】