恵里奈が在籍していたリゾートホテルを一通り視察して、どの従業員を引き抜こうかと考えていた日の出来事──────……

「ママー、ママー」

エントランスホールで母親とはぐれてしまった小さな女の子が居た。フロントから、それに気付いた恵里奈は業務をすっぽかして駆け寄った。小さな女の子を抱き上げ、持っていたハンカチで涙を拭く。

「もう泣かなくて大丈夫だよ。お姉ちゃんと一緒にママを探そうね」

女の子は頷き、恵里奈にペッタリとくっついて離れなかった。女の子と一緒に周辺を探して居た時、母親が慌てて来た。恵里奈はニッコリと笑って、女の子とバイバイをした。

そんな恵里奈の事を初めて見た時、目が釘付けになった。あの後、事務所に立ち寄るとフロントマネージャーにこっぴどく怒られていた現場に出くわした。業務を投げ出したのはサービススタッフとして、してはいけない事だが、迷子の子供を放っておかないのも基本サービスの一環であり、おもてなし教育の一環だとも言える。

後々、恵里奈の評判を聞くと「仕事は出来るのですが、今日みたいに迷子を見つけた時などに引き継ぎを疎かにして目の前の事に目移りしてしまう傾向があります。引き継ぎをするか、迷子を他の手の空いているスタッフに任せれば良かったんですけど。それさえなければ、優秀なんですけどねぇ…」とフロントマネージャーが言っていた。

確かに恵里奈は目の前の事を最優先してしまう事が多々ある。仕事が出来ない訳ではないが、それ故に評価はBに近いAなのだ。