自分がスイートルームに泊まれる日が来るなんて、思っても見なかった。周りを見渡すだけで、胸が高鳴ってしまう。

「一颯さん、一颯さん、夜景が綺麗です!お風呂も広いです!アメニティもブランドです!こ、コーヒーマシーンもあります!」

「……自分の働いているホテルとさほど変わらないだろ。恵里奈は子供みたいだな」

仕事以外ではスイートルームに入った事がない私は感動してしまい、はしゃいでいると一颯さんはそれを見ては呆れていた。

「連絡はしておいたが、予約時間が過ぎてるから急いで行くぞ」

「はい?何処へ?」

「何処へじゃない!食事しに行くから」

浮かれて居たのも束の間、手を繋がれて早足で客室を後にした。食事の場所はドレスコード有りのフレンチレストランだった。

「わ、私には、高級フレンチなど敷居が高すぎます…」

フレンチのサービスをした事はあるが、自分が客になるなど初めてだ。前回のお箸で食べられるフレンチとは違い、格式高い。どうしよう…?考えれば考える程、怖い。席に座った瞬間から身震いがした。周りには紳士や貴婦人のような方々ばかりが食事をされていて、私自身は場に馴染んでいないように感じられた。絶対に浮いている気がする……。

「改めて、誕生日おめでとう」