「篠宮さん…」

男性が去った後、副支配人が低いトーンで私の名前を呼ぶ。何を言われるのかと思い、内心ドキドキしている。一颯さんとの関係を勘づかれたのだろうか?

「しょ、職場では…朝の事、ぜ…、絶対に言わないでね」

副支配人と茶髪の男性の事か。

「言いませんよ、絶対に!お約束します!」

私は顔色の悪い副支配人に対して、笑顔で答えた。約束するので私の事も余計な探りは入れないで欲しい。

「お願いよ、絶対にね!」

「はい、お約束致します」

副支配人に両手を握られ、再び誓いを立てた。あまり接した事がないが、職場のイメージとは違い、可愛らしい一面もある女性だと思った。職場では他人に厳しく、自分にも厳しい完璧主義者の様な副支配人が焦りを感じて慌てている。完璧主義者も恋をすると崩れるのね。

「ところで…、篠宮さんはこのマンションにお付き合いしている方が居るの?だとしたら、いつも来ていたのかしら?」

「あー…、そうですね、毎日ではないですが、週に何度か…」

「今日初めて会ったわね。このマンションには支配人も住んで居るのよ。基本、すれ違いだから出くわした時はないわね」

「そうですか……」

マンションを出て、ホテル方面へと二人で向かう。お願いだから、これ以上は聞かないで!

「篠宮さんのお付き合いしている方は年上?スーツ姿がカッコイイって、瑠偉君が言ってたから」

るい君?さっきの茶髪の男性かな?

「はい、年上です」

「そうなのね…。どんなお仕事をなさってるの?」

お仕事は貴方と同じホテルの支配人ですよ。……と言いたいけれど言えない。どう答えたら良いのでしょうか?