「しっ、…篠宮さんはこ、この…マンションに住んでるの?」

「す、住んでません…!」

お互いに驚き過ぎてしどろもどろになる。気まづいから早くエレベーターを降りたい。こんな時に限って、途中の階からは誰も乗って来ない。エレベーターを降りても、マンションの外に出るまでは憂鬱なんだろうけれど。

「祥子(しょうこ)さんのホテルの子?」

茶髪の男性が私に話しかけてきた。

「はい、そうです。副支配人にはいつもお世話になっております」

「そうなんだぁ。朝早くとか夜とか、よくすれ違うよね?」

「えと…いつも急いでいて記憶になくてすみません…」

お願いだから、それ以上は聞かないで!

「そうだよね、いつも急いでるな~って俺も思ってた。あのカッコイイ人、彼氏?デキる男って感じのスーツ着てるあの人。あの人にもよくすれ違うし、二人で居たのも見た事あるよ」

どちらかと言えば高見沢さんみたいなアイドル系の顔をしている茶髪の男性は、人懐っこくて私にどんどん歩み寄って来る。

「えっと……」

副支配人に一颯さんとの関係は知られてはいけない。どう答えようか迷っていた時に丁度良くエレベーターが1階へと着いた。ふぅっ…と息を小さく吐き、先に降りた。

「祥子さんと俺の事、ホテルでは秘密にしておいてね。俺も秘密にするから。じゃあね~。祥子さん、今日も行くからまた夜にね~」

男性は先に降りた私に釘を刺して、副支配人に手を振ってから先に外に出てしまった。