「今は他の男の話をするな」

高見沢さんにもヤキモチを焼くなんて、どうしたのかな?高見沢さんの話題を振って来たのも、副支配人の話題を出したのも一颯さん自身なのに。

「……はい、もうしません!」

カウンターからも他のお客様からも死角になっていて見えていないかもしれないが、心臓に悪いので御機嫌は損ねないでおこう。絶対に酔って来てるよね、一颯さん。ビールからの日本酒、……でバーに来てからのジンは三杯目?

「分かればよろしい」と言って、頭をグリグリと撫でられた。髪の毛をゆるゆるお団子にしてみたのに崩れちゃうじゃない!……と思ったら、「恵里奈は下ろしてた方が良い」と言って勝手に髪の毛のゴムを外して解かれた。

ジンが入っているグラスの氷をカラカラと音をさせて、手に持っている一颯さん。隣で顔を見つめられて、目線を外さないから私から外してしまう。恥ずかしさに顔から火が出そう。

「甘い物食べる?」

ジィッと見られていたから何を言うのかと思えば、甘い物って……。思わず吹き出してしまった。

「悪かったな、拍子抜けさせて。酒を飲んだ後に無性に甘い物が食べたくなる時があるんだよ。だから、以前に作ってくれたガトーショコラも嬉しかった」