「……っん、」

首筋はとても敏感に反応してしまうので、身体が縮こまった。

「恵里奈は可愛いな。今すぐにでも食べてしまいたい」

妖艶な微笑みに負けてしまいそうになる。

「……今はコレで我慢して下さいね。夜は沢山構ってあげますから…」と言い、一颯さんのネクタイを引っ張り、右頬に右手を触れて自分からキスをした。甘い毒には甘い毒を持って制す、はずだったのに………!

「楽しみに待ってる。夜が待ち遠しいな」

一颯さんは舌を絡めて、キスは深みを増した。罠を仕掛けたつもりが一颯さんは余裕綽々で、毒牙に侵食されたのは私自身だった。

「……ほとぼりが冷めてから行きなさい」

一颯さんの甘い毒牙から解放された私は顔も火照っているし、髪型も乱れてしまった。支配人室でキスしちゃった!こんな事、駄目なのに!当の本人と来たら…何事もなかったかのように平然とした態度でコーヒーを飲んでいる。

「……ほら、冷たい烏龍茶」

「有難うございます…」

烏龍茶を受け取った後、支配人の職場用の携帯から着信音が鳴った。支配人は何やら話して、この部屋に副支配人が来るから見つからないように出なさい、と言われて咄嗟に追い出された。もう、さっきはほとぼりが冷めてからって言ったくせに!……まぁ、仕事中だし、誰かに見つかったら大問題だけれどね。

少し乱れた髪型を直す間もなく追い出され、仕事に戻る途中に副支配人と鉢合わせしそうになり、心臓が飛び跳ねた。

歩いて来る姿が見えた時に別な部屋に上手く隠れたから見つかってはいないと思われる。

自分の恋愛事情も皆の恋愛事情も合わせて、社内恋愛って難しい───……