エグゼクティブフロアにあるブッフェレストランの影から、吉沢さんが居ないかどうか見ていると私を見つけて駆け寄ってくれた。

「篠宮ちゃん、どしたの?」

「あ、えっと…、その…」

「朝の件かな?もうすぐ休憩入れるから、そしたら話そ!」

吉沢さんは私を見ては察したようで、笑顔で迎えてくれた。

休憩中に話をしたら、吉沢さんはいつも笑顔でいるけれど、その裏には抱えきれない程の寂しさを持ち合わせていた。正直、聞かなきゃ良かったなどと身勝手な事を思ってしまった。吉沢さんが彼氏を好きだと言う気持ちがある限り、高見沢さんは救ってあげられない。

「高見沢さん…、コーヒーこぼれてますよ…」

ルームサービスに持って行くコーヒーを用意していた高見沢さんは、コーヒーポットが満タンになっているのにも関わらず注ぎ続けていた。

「あぁ、しまった。どうかしてるな、俺…」

「私が代わりに運びますよ。高見沢さんは休んでいて下さい」

私は高見沢さんの代わりにルームサービスのスイーツセットを客室に運び、こぼしたコーヒーを片付けた。

壁に寄りかかり、項垂れている高見沢さん。

「吉沢に会った?」

「あ、えっと…はい、先程、少しだけ…」

私はいきなりの吉沢さんの話題だったので、どぎまぎしてしまった。

「吉沢の彼氏は浮気性でどうしようもないって話はしただろ?吉沢も何度も別れようとしたんだけど…その度に丸め込まれて信じて泣かされて…。何で別れないのか?って思ってたけど、それはつまり、吉沢が彼氏を忘れる事が出来ないからだ。俺が気持ちを伝えないのも…、現状が居心地が良いから……」

吉沢さんは高見沢さんの気持ちを薄々、気付いてはいたのだと思う。お互いに"友達"というカテゴリーを壊したくなくて、一歩を踏み出したくはなかった。こんなにも思ってくれている高見沢さんとお付き合いしたら、吉沢さんは幸せになれるはずなのに……恋は盲目なのだろう。彼氏を捨てられない。

痛い位に伝わる高見沢さんの気持ちが切ない。