「ごめん、何でもない」
既に正門のところまで先に辿り着いているお母さんが、振り返って私を待っている。
慌ててお母さんに追いついた私は、正門を通り抜ける前に校庭を振り返った。
もう授業の終了時間が近付いているのか、試合を終えた男子生徒たちが少人数のグループになりながら先生のほうに集合し始めている。
その中に、友達と戯れあいながら笑っている彼の姿も見えた。
「友ちゃん?」
また立ち止まっている私を、お母さんが不思議そうに振り返る。
「あ、うん」
後ろ髪を引かれるような気持ちのままお母さんの横に並ぶと、お母さんが私の横顔を見つめてきた。
「何?」
「うぅん。友ちゃん、新しい学校気に入ったのかなーって」
「どうかな。まだわかんないよ」
「友達がたくさんできるといいわね」
笑って言いながら視線を正面に戻すおかあさんに、私は何も答えられなかった。
友達とか、楽しい学校生活とか、そういうのにはもうあまり期待していない。
だけどこの頃ずっと真っ暗だった私の世界に、ほんの一筋だけ光が差したような気持ちがする。
それは間違いなく、ひさしぶりに見た彼のおかげなんだと思う。