「手伝う」

蛇口の横にあるタワシを取って網を磨き始めた星野くんが、私に向かって普通に話しかけてきたからびっくりした。


今まで、私だけには話しかけようともしなかったのに。

たまに目が合ったとしても、冷たい視線を向けられるだけだったのに。

それなのに、どういう吹き回しなのかわからないけど、私の隣に立って「手伝う」なんて言ってくる。

普通ではありえないその状況に、頭が混乱して軽くパニックになった。

だって、星野くんは私のことなんて嫌いなはずなのに。


「そんなの要らない!」

動揺して、思わず星野くんの手から洗いかけの網を奪い取る。

だけどすぐに、星野くんが洗剤の泡がついた手を茫然と見つめているのに気付いてマズいことをしたと思った。

ただでさえ嫌われているのに、せっかくの厚意まで無碍にしたらさらにイヤな奴だと思われるだろう。

きっと、いつもみたいに冷たい目で睨まれる。

それを予想して網を掴む指にギュッと力をいれて俯いたら、星野くんのため息が聞こえてきた。