「友ちゃん、こっちだよー!」
始業式以降、村田さんはなぜか私のことを親しげに「友ちゃん」と呼んでくる。
別に仲が良いわけでもないし、ただ小学校が同じだったというだけなのに。
「友ちゃん」なんて呼ばれると、まるで前の学校の友達に名前を呼ばれているみたいで変な気持ちになる。
それに、星野くんが村田さんを呼ぶのと同じ響きで彼女に呼ばれるのもなんだか複雑だ。
村田さんの呼びかけにノーリアクションでいると、それまで私には無関心だった星野くんがこちらに視線を向けた。
遠目ではっきりと表情は見えないけれど、心なしか睨まれているような気がする。
星野くんと村田さんが付き合っているわけではないみたいだけど……
少なくとも、星野くんのほうは村田さんのことが好きなんじゃないかな。
なんとなくそんな気がする。
「友ちゃーん」
村田さんは、私が彼女の呼びかけに気付いていないと思っているらしい。
より一層大きく手を振って声を張り上げる彼女に、他のグループからの視線が集まり始めていた。
そのことを気にするように周囲を見た星野くんが、私にまた視線を戻す。
今度こそ本当に睨まれているんだろう。
苦笑いを浮かべた私は、仕方なく村田さんに小さく手を振り返して、彼らのほうに歩いていくことにした。