「そんなことより、竜馬もう課題終わってるよな。そろそろ行ったほうがよくね?」
「あ、部活遅れる」
星野くんたちが片付け始めたのか、教室がガタガタと騒ついた。
その音を茫然と聞きながら立ち尽くしていると、私が立っているドアのほうに彼らの気配が近付いてくる。
ハッとしたときにはもう手遅れで、一番最初に教室から出てきた石塚くんが私に気付いて足を止めた。
そして、あからさまに気まずそうな顔をする。
気まずいのは私だって同じだ。
でも石塚くんの表情を見たあとに、私が同じような顔をしたらもっと気まずい。
だからできるだけ無表情を繕って、彼らの横をすり抜けて教室に入った。
本当は振り向くこともできないくらいの動揺と緊張でいっぱいの私の背後で、石塚くんの声がする。
「やべ。聞かれたかな?」
本人は声を潜めたつもりだろうけど……
聞こえてるよ、と心の中で言葉を返す。
そんな私の背後で、今度は星野くんの声が聞こえた。
「別にいーじゃん。関係ないし」
冷たい彼の声を聞いて、私は絶望的な気持ちになった。
あぁ、そうか。
私は星野くんに嫌われてたんだ。
名前も覚えてないことにされるくらい。
きっと、ずっと昔から。
少しずつ遠くなっていく星野くんたちの足音を聞きながら、私は私の初恋を記憶の奥底に封印した。