「雰囲気の良さそうな学校でよかったわね。校長先生も親身にお話を聞いてくださったし。ここなら友ちゃんも、高校生活の残り二年間を楽しく過ごせるんじゃないかな」
少し先を歩くお母さんの声が弾んでいる。
心なしか、お母さんの黒のヒールが地面を打つ音も軽いような気がして、私は俯きながら「うん」と小さく返事するしかなかった。
高校生活の残りニ年間を楽しく……
お母さんはその言葉を軽い気持ちで口にしたのかもしれないけど、私はどうしたってそんな気持ちにはなれそうもなかった。
もし本当に楽しく過ごせるのなら、私はこんなところへは来ていない。
ため息をつきたい気持ちでいっぱいだったけど、せっかく明るい気持ちになっているお母さんをがっかりさせたくないから、俯いたまま我慢した。
「新しい制服やカバンを用意しないとね。あと靴も」
明るい声で話し続けるお母さんの言葉をぼんやりと流し聞く。