「大丈夫か?顔、真っ青だけど」
ゆっくりと顔を上げると、星野くんが心配そうに私のことを見つめている。
彼の言うとおり、私の顔は青ざめているのだろう。
星野くんのシャツを握る手は、指先が固まったまま開くことができず、腕までガクガクと震えている。
唇、というよりも歯がガタガタいいそうなくらい顎から震えていて、星野くんの顔を見上げるのもやっとだった。
「だいじょ、ぶ?」
震えながら必死に声を絞り出した私を見て、星野くんが僅かに眉根を寄せた。
「それ、こっちのセリフ。どう見ても大丈夫じゃなさそうなのは、そっちだろ」
星野くんの言葉に、頭の中が少しだけ冷静になる。
さっきフラッシュバックのように現れたのは、半年以上前のナルの残像。
今目の前にいる星野くんは、階段にしっかりと立っていて無傷だ。
虚ろに泳がせた目が、ふと階段の手摺りをとらえる。
そこに置かれた星野くんの右手は、手摺りの棒をしっかりと握っていた。
あぁ、よかった。だから、無事だったんだ。
星野くんのシャツを握り締めていた指が弛緩し、全身から一気に力が抜ける。
「おい、ちょっ、深谷?」
グラリ、と大きく揺れた身体が、星野くんに抱き留められた。