それほど強く振り払ったつもりはなかったのに、星野くんの身体がぐらりと少し後ろに揺れた。

ほとんど二階の踊り場近くまで上がってきていた私たちの眼下には、十段以上もの階段がある。

階段で少しよろけた星野くんが、「あ」と焦ったように小さな声をあげるのを聞いて、全身の血が引いた。

目の前の星野くんに重なるのは、バランスを崩して大きく目を見開いたナルの顔。

何が起きたのかわからず固まる私の前で、手を伸ばしながら背をそらすように後ろに倒れていく彼女の悲鳴。

その光景が今まさに起きている現実のように脳裏に蘇って、私は記憶の中の彼女に夢中で腕を伸ばした。


「ダメ!」

叫びながら前に出した手が、確かな感触とともに何かをつかむ。

それを意地でも離すまいと、きつく握りしめたとき、頭上から声がした。


「深谷……?」

私を呼んだのは、ナルではなく星野くん。

ふと見ると、私の手は星野くんの制服のシャツを指先が赤くなるくらいに強く握りしめていた。