「深谷」
速足で廊下を突き抜けて階段を駆け上ろうとする私を、星野くんが追いかけてくる。
「おい、深谷。無視すんなって」
階段の途中で、追いついた星野くんに捕まった。
「そんだけ走れるってことは、もう足は大丈夫なんだな。夏休み中、智ちゃんと岸本が深谷んちにお見舞いに行ったって聞いた。なんで、俺には何の返信もしてこなかったんだよ。何度か連絡いれたよな?」
私の手首をつかんで引き留めた彼が、微妙に怒気を含んだ声で私の背中に話しかけてくる。
村田さんと岸本さんがお見舞いに来てくれたこと、星野くんに伝わっていたんだ……
彼女たちにはちゃんと返信しておいて、星野くんのメッセージだけ無視したのがバレているなら、気を悪くして当然だ。
「深谷」
黙ってうつむく私を、星野くんが苛立った声で呼ぶ。
だけど私の頭の中には、星野くんの苛立ちを沈める言葉も、メッセージに返信をしなかったことの上手な言い訳も思い浮かばなかった。