「友ちゃん、大丈夫なの?」
星野くんに助け起こされる私を見て、お母さんが血相を変えて駆けてくる。
汚れて着崩れてしまった私の浴衣に気が付いたお母さんは、警戒するように星野くんに無言で視線を向けた。
「すみません。一緒にいたのに、怪我させてしまって」
星野くんがそう言ってお母さんに頭を下げるから、私はひどく慌ててしまった。
これでは、お母さんの目には星野くんが私に怪我させたように映ってしまう。
「違うよ、お母さん。私が勝手な行動をしたせいで土手から滑って怪我したの。星野くんは何も悪くない。何の関係もないのに、ずっと私についててくれたんだよ」
星野くんのことを誤解されたくなくて、お母さんの腕をつかんで必死に訴える。
お母さんが、未だに頭をあげようとしない星野くんと必死に腕に縋る私を交互に見てから、ふと表情を和らげた。
「そうなのね。ありがとう、星野くん。友がご迷惑をおかけしてごめんなさい」
お母さんは顔を上げた星野くんにそう言って笑いかけると、私のことを車に乗せた。
助手席の窓越しに、車を見送る星野くんの姿が見える。
たくさん迷惑をかけて何度も星野くんの前から逃げ出したくせに、いざ別れるとなると淋しさが込み上げる。
指先を窓に這わして小さく手を振ると、星野くんがそれに気付いて顔の横まで軽く手を挙げた。
小さく手を振り返してくれた星野くんが窓越しに優しく笑いかけてくれたような気がして、胸の奥が熱くて苦しかった。