さっきまでとは明らかに違う雰囲気を纏う星野くんを緊張気味に見つめ返すと、彼が唐突に私に問いかけてきた。


「この前、深谷のこといいやつだなって思ったって言ったじゃん?」

中庭で聞かされた村田さんと私とのエピソードを思い出して小さく頷くと、星野くんが優しい目で私を見つめながらどこか切なげに笑った。


「だから俺、卒業式前日に机の中で深谷からの手紙を見つけたとき、実はちょっとだけ期待した」

「え?」

星野くんの言葉の意味が私の頭の中で充分に消化されないうちに、彼の手が私からそっと解けていく。

時が止まったように動けなくなる私の前で、星野くんが先にゆっくりと立ち上がった。


「あれ、深谷のお母さん?」

車の運転席から飛び出してくるお母さんを見遣りながら、星野くんがまるで何事もなかったみたいに自然に話しかけてくる。

戸惑う私をよそに、星野くんはこっちへ向かって走ってくるお母さんに軽く会釈していた。