「行永、落ち着け。どうしてここにいる」
「そんなの先輩に会いに来たにきまってるじゃないですか！」
「は？どうして？俺に」

先輩も私の大騒ぎに、若干狼狽している様子だ。

「会いにきたんです。話がしたくて。……そしたら、あんなに悲しい別れのシーンを見ちゃって。私……先輩に謝ることも、……告白することもできなくなっちゃったんですよ……」

榛名先輩は私の言葉に明らかに表情を変え、半泣きで詰め寄る私から一歩引いた。

「別れのシーンじゃない」
「じゃあ、なんなんですか！？どう見ても周囲に反対された恋人同士の別れだったじゃないですかぁ！」

少しだけどお酒が入っているせいか、私の感情はノンストップ状態だ。
自分自身もつらいし、榛名先輩とサイカさんの恋も悲しい。もうわけがわからないほど苦しい。

すると、榛名先輩がくわっと厳しい顔になった。

「行永はいつも早合点し過ぎだ！何度同じことで俺に怒鳴られた！？」

瞬間オフィスを思いだし、ひゅ、と息を飲む私。先輩は呼吸を整え、それから眉間に皺を寄せた顔のまま言った。

「彼女は俺のはとこで婚約者だ。そして、俺たちにはそれぞれ別に好きな人がいる。親に決められた結婚はできないと話し合っていたところだ」

はとこ？
婚約者？
情報量が多過ぎて、聞き返してしまう。

「え！？」
「もう一度言うぞ。彼女も俺も互いと結婚する気はない」
「えええ？」