21時。渋谷区のマンション前に私はやってきていた。

佐橋くん経由で三田村さんに調べてもらったのは、榛名先輩の自宅マンションだ。目の前にそびえるこの高層マンションにいるらしい。部屋番号は聞いているけれど、いるだろうか。私が尋ねても会ってくれないかもしれない。

それでもどうしても会いにこなければならなかった。
言いたいことがある。どんな結果になろうと伝えなければ、私は先に進めない。

だけど怖い。エントランスに入り、部屋番号を入力し、インターホンを持ち上げる。それだけの作業が怖い。
まだ意気地なしの私が、彼の拒絶におびえている。
駄目だ。絶対に今日話すんだ。

すると、マンションに向かってくる二人連れの姿がシルエットで見えた。
私は咄嗟にエントランス横の柱の陰に隠れた。ちょうどくぼんでいて、私ひとりなら隠れられたのだ。

現れた人物に、私は驚きの声を喉の奥に押し込んだ。
榛名先輩だ。一緒にいるのは、この前見かけた女性。

やっぱり、家に招くような間柄なんだ。心臓がぎゅうぎゅうに握りつぶされそうに痛んだ。
このままふたりが入った部屋のインターホンは押せない。恋人同士の邪魔はできないもの。
奮い立たせた勇気がくじけていく。