「行永、見違えたよ」

課長に言われ、素直に嬉しい。同時に早く榛名先輩に伝えたいと思った。
この話をしているオフィスに榛名先輩はいない。ちょうど外出しているのだ。早く帰ってくればいいのに。指導した後輩の仕事、少しは喜んでくれるといいな。ドキドキ胸を高鳴らせながら

待っていると、先輩が同期の三田村さんと一緒に戻ってきた。なにやら、雑談しているみたい。ちょっとならいいよね。

「榛名先輩!」

私は駆け寄った。三田村さんに頭を下げてから、榛名先輩の手に契約内容をまとめた資料を渡す。

「途中経過までご報告していた件、うまくいきました」

榛名先輩は感情の見えない表情で、私を一瞥した後、資料を手早くめくり、すぐに私の手に戻した。

「そうか」

言葉はそれだけだった。視線すら絡まなかった。
そのまま、三田村さんと話しながら、再びオフィスを出て行ってしまった。三田村さんの所属している五課のオフィスに行くのかもしれない。

そりゃ、この件は榛名先輩には直接関係ない。もうじき、指導係をやめたら、私の報告を受ける義務もなくなる。
だけど、私は先輩に褒めてほしかったよ。誰よりも先輩に認めてほしかった。
すべて自業自得だとわかりつつ、悲しくて苦しくて気持ちの持っていく場所がない。
ああ、好きな人に好いてもらえないってこんなに悲しいんだ。私はどれほど、榛名先輩を傷つけてきたんだろう。
やっぱり、私はもう先輩に近づいちゃいけないんだ。それだけを強く思った。