仮の総長様は向日葵のような元姫さまを溺愛せずはいられない。




「……で、彼らがしたというかさせられたのは写真を撮って合成したってとこだよ。

写真は決定的な証拠になる。

だけど、“口止め”が足らなかった……いや、君のことが仲間として大切なら口止めなんかしなくても言わないんだろうね。

……彼らが言ったこと教えてあげるよ。」


また、彼は録音機の再生ボタンを押した。

『仕方なかったんです…俺は、俺が信じてたのは……陽愛さんなのに。

けど、家族を見捨てるなんてこと出来なくて……っ

陽愛さんは、俺たちみたいな下っ端でも良くしてくれたのに恩を返すどころか……裏切ったのは、本当の裏切り者は俺たちですっ…』

すると、録音機から流れていた声の主である彼らが私の前に出てきた。





「タキくん、いっくん……」

月輝に入った頃から追い出されるまでずっと仲良くしてくれた彼ら。
私は彼らを知らないうちに苦しめていたんだ……。

「陽愛さんっ……ごめんなさい。俺たち、謝っても許されないことしましたっ……本当に、」

土下座をしちゃうんじゃないかというくらいに彼らは座り込み下を向いた。
その時私の手を繋いでいた陽平くんの手が離れた。だから……。

「……もう、謝らないで……。タキくんいっくん、頭あげて……」

「ひ、よりさん……っ」

「ごめんね、私のせいで苦しめて……本当にごめん。
2人が私を選ばなくてよかったよ。私なんかよりも大切なのは家族だよ。

私ね、月輝を追い出された次の日にね唯一の家族だったお母さんが死んじゃったの。

今の私だから家族の大切さが当たり前に大切な人が隣にいる毎日が幸せなんだって思える……今、ある幸せをずっと陽平くんの隣で感じていたいから」





彼らに頷くと、陽平くんにアイコンタクトを送る。

「陽愛っ……!」

そう私を呼ぶけど、彼に再びアイコンタクトをする。大丈夫だよ、心配ないよって彼が安心できるように。

だってこれは私の問題でもある。みんなはいつかは戦う相手だったというけど、引き金を引いたのは誰でもない私だ。

ちゃんと、解決したい。
私はもう怖くない。陽平くんたちが側に居てくれるんだから。

戻る場所、居場所があるってこんなに安心感があるなんて知らなかったよ。
その場所にちゃんと戻るために私は……私がケリをつけるんだ。

彼らの為だけじゃない。私のために。堂々と陽平くんの隣に居られるように。

「ねぇ、三間くん……」

そう彼に、彼らに話しかけた。







【三間 side】


月輝の姫だった彼女は、俺を苗字で呼んだ。
彼女が姫だった時は名前で呼んでくれていたのにもう他人行儀の呼び方だ。

当然だよな……俺が信じて疑わなかったものは全て偽物だった。

ずっと仲間だった彼女のことを、信じなかった。
花凛よりも陽愛の方が過ごした時間は長かったはずなのに、俺は……。


「そんなの…嘘よっ!お兄ちゃんは濡れ衣を……」

「は?濡れ衣を?そんな訳ないだろう?なぁ、詠佑。」

花凛が聞いたことのない声で叫ぶ。だけど、それに対して日向会の味方らしい男性が嘲笑うように詠佑さんに問いかけた。







詠佑さんと、知り合いなのか……?

「ん?そろそろ起きる時間なの……」

「そうだよ、こんな状況で良く寝れるな。」

「そう?もうそろそろ悠介、縄取ってくれない?俺、痛い」

彼は悠介さんと言うらしい。それにこの2人はどんな関係なのだろうか……?

「ふざけんなよ!!詠佑さんも裏切ったのかよ!」

そう叫ぶのは岸本アンリ。花凛が好きでそのお兄さんの詠佑さんに慕ってた彼だから……。そんな彼に向かって走っていく。

「アン、リっ……!」

俺が叫ぶ前に詠佑さんが行動に出た。彼が棒パイプを振りかざそうとしたが軽く止めて奪い投げ捨てた。そして綺麗に蹴りを入れた。
すると、アンリは吹っ飛ぶ。

「裏切った、だ?勝手におめーが信じただけだろ?それに、俺が仲良くしたのは花凛の友だちだから。しかも、組を動かしたのは花凛。俺は無関係だ。」





無関係……

それって、なんか。

「……なぁ、花凛。そうやって誰かを陥れて手に入れた“幸せ”は本当に花凛にとって幸せなのか?
人の幸せを奪って、傷つけて…。いいか、花凛。こいつらもずっといた陽愛ちゃんを信じなかったことは悪い。仲間として、チームに入れたはずなのにただ追い出した。彼女の言い分も何も聞かずに、聞く耳持たなかったんだから。」

……図星だ。俺は何を見ていたんだろう。返す言葉も見つからない。

「花凛、おまえは知らないだろう?お金では手に入れられないものがあるっていうことを。」

「お金では手に入れられない……」
詠佑さんの言葉に俺は小さな声でつぶやいた。

「…分かるわけないよな、花凛には。でも、陽愛ちゃんと陽平くんならそれがなんだかわかるよな?」

それは、きっと……。

「信頼…信頼はお金じゃ買えない。
欲しいって願ったとしても毎日の積み重ねでしか得られない。それに、」

陽愛は日向会の総長と目を合わせた。すると、彼はとても優しい顔になる。




「心から愛し愛されること。心もお金じゃ買えないものだから。
俺は、陽愛と出会えたことでわかるようになった。自分だけが愛してるだけじゃダメなんだって、相手からも愛されなきゃいけない。
愛し愛されることで信じようって思える。信頼が生まれる。」

信頼が生まれる、か……。
そういえば花凛のことを仲間として好きでもないし彼女からも愛情を感じなかったな。

俺らの中に初めから、信頼が生まれるはずないよな。


「花凛と月輝の関係は薄っぺらい偽物の信頼関係だったんだよ。」

「……!だけど、わたしには組員の」

「組員の奴らのことか……おまえの言ったことと俺や親父が言ったことどっちを従うと思う?」

「……そんな、私には従わないはずが……」

花凛はまだ分かってないようだ。身内である詠佑さんの言葉も響かない。

「なんでよ、なんで私の思い通りにならないのっ!」

花凛が叫んだその時、陽愛が動いた。彼女の前に立った瞬間……倉庫内にパチンッという音が響いた。







【陽愛 side】


自分でも驚いた。私が誰かに手を出すなんて……。
大きな音と同時に手がジンジンと痛い。

「いったいわねっ!何するのよ!」

「……それは、タキくんといっくん、月輝のみんなの痛み。」

もう一度彼女の頬を叩く。人が怒りに震えたら私でもこんなになるんだ……

「どう?痛かったでしょう?
みんなそれ以上に傷ついた。あなたのどうでもいい感情で振り回して。

無い物ねだりばっかりしてさ…あれもこれも欲しいって恥ずかしくないの?

あなたが手に入れたもののせいで誰かが苦しんでることわかろうともしないなんて……本当に人の心をなんだと思ってるの!」

「そんなの知らないわよ!私は愛されるべき人なの!だから「いい加減にしなさい、花凛」」

え……。
その声の主は月輝の人でも日向会のメンバーでも私でもない。悠介さんでも詠佑さんでもない……知らない人。





「ぱ、パパッ!」

ぱ、パパ……?ということは、花凛と詠佑さんのお父さんってことだよね?
その人が近くに来れば詠佑さんと悠介さんはお辞儀をする。

「詠佑、悠介くん頭をあげなさい。
……花凛、おまえには失望したよ。
花凛はそんな子じゃないと思っていたが……甘やかしすぎたようだ。

詠佑や悠介くんが報告してくれなければ花凛がしたことを私は知らなかったよ。」

“失望した”
その言葉に花凛は呆然としている。
父親に言われたからか、ショックを受けているようだった。

「……すまなかった朝倉さん。本当に、娘がとんでもないことを……。
本当に謝っても謝りきれないくらいのことをした…本当に申し訳ない。」

「…いや、あの顔を上げてください……」

極道の風格というか、頭を下げることが出来なさそうな人だと思っていたのに私に深々と頭を下げる。

「許されたいなんて思ってはおりません。この娘がやったことは、人の気持ちを踏みにじり傷付け、最低のことを犯した。
許されてはいけないことをした。」

そしてもう一度、頭を下げた。