レストランに沈黙が流れた。
しばらく俯いてアルバムを見つめていたメディさんは、やがて小さく息を吐く。
淡い黄金の光が店内に溢れ、その瞬間、カウンターに立てかけていた例のブツがゆらりと傾いた。
突然動いたことでバランスを崩し、勢いよく倒れる寝袋。額を打ったようで、うめき声が聞こえる。床に激突した痛みに耐える男性は訳がわからず混乱しているようだ。
「マオット」
メディさんが彼の名を呼んだ。
寝返りを打った彼は、側にしゃがみ込む恋人の姿に息もつけないほど驚いている。
ケットが寝袋のチャックを勢いよく下げて、脱ぐのを手伝ったものの、戸惑う彼は腰が抜けたように座り込んでメディさんを見つめていた。石にされていた間の記憶は飛んでいるらしい。
「あの、メディ。これは一体…?」
「ここは人間界のレストランよ。色々話さなければいけないのはわかるんだけど…説明する前にひとつ言わせて」
彼女は深く頭を下げた。
「ごめんなさい…!」
目を見開く彼。
メディさんは、俯いたまま言葉を続ける。
「私、あなたに魔法をかけたの。別れ話をされると思って、怖くて逃げた。本当にごめんなさい…!もう逃げないから。ちゃんと聞くから」