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ガヤガヤとした賑やかな声が聞こえ、はっ!と気がついた。
視界に映るのは人間界の空。目の前には見慣れた都市の繁華街が広がっている。広場の時計台は昼過ぎで、街頭に落ちていた新聞の日付は去年のものだ。
本当に過去の世界に来たのね。信じられない。
「ミレーナ」
名前を呼ばれ振り返ると、側にルキが立っていた。
すれ違う人々はその姿を気にも留めない。聞いていた通り、過去の住人からはこちらの姿が見えないのだろう。
「無事にここまで来れたはいいが、これからどうする?浮気の証拠を掴まなければ、メディは口だけでは納得しないだろう?」
「心配及びません。私にはコレがありますから」
自慢げに掲げてみせたのは、相棒のカメラだ。
「これでマオットさんがちゃんと働いているところを撮影できれば、証拠の写真をメディさんに渡すことができます」
「なるほど。まるで探偵だな」
と、ルキが口角を上げたその時。視界に見覚えのある男性の姿が映った。スーツ姿で歩いているのは間違いなくマオットさんだ。
「ルキ、見てください!マオットさんです!こんなすぐに見つけられるなんて…!」
「マクが都合よく過去に飛ばしてくれたんだろう。あとはあの男を尾行するだけだな」
しかし、簡単に事が運ぶと思った瞬間。マオットさんは路地脇に停めてあった車へと乗り込んだ。思わず目を見開くと、嫌な予感が的中し、車は勢いよくエンジンがかかる。
まずい。車に乗られたらすぐに見失ってしまう…!
すると、ルキがふわりと私を抱き上げた。
とっさのことに体温が急上昇するが、ルキの目はマオットさんだけに集中していて、まるで獲物をとらえた狼のようだ。
「このまま追う。抱きついてろ」
「はい!?」
返事もなく地面を蹴るルキ。
重力に逆らった体は、屋根の上へと着地する。人間業ではない動きに息が止まった。
こうして、ジェットコースターのような追走劇が始まり、やがて私たちは、マオットさんの隠していた真実を掴むことに成功したのである。