ゴルゴーンの名前は神話や伝説で耳にしたことがあった。髪が蛇で、見たものの姿を石に変える美女。まさか、魔界の住人がこんな身近にいたなんて。

ルキの腕から抜け出した私は、素早く男性に駆け寄った。

公園に残された彼は完全な石像で、命の気配はなかった。モニュメントのひとつだと言われても違和感がない。


「ルキ、どうしましょう…!行方不明の男性が石像となって発見されるなんて大事件です。このまま放置しておくわけにも行きませんし」


幸いにも公園には人通りがなく、石化した現場を目撃したのは私達だけだった。

混乱する隣でルキは顔をしかめ、やがて面倒くさそうに舌打ちをしたのだった。


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「おかえりなさ〜い!わぁっ、すっごく大きなお土産だね!これなぁに?」

「ずいぶんリアルな石像だね。ミレーナちゃんの趣味かい?」


幽霊機関車で早々に帰宅すると、魔界の飲食店でテイクアウトした商品を楽しんでいた様子のふたりは、にこやかに私達を出迎えた。

どうやら、ルキの抱える例のブツをカメラ好きの私が選んだ撮影用の題材だと思っているらしい。

あごに手を当てたヴァルトさんがルキに尋ねる。


「もしかして、レストランの新しい名物ですか?」

「バカを言え。これは人間だ」

「はい?」


事情を説明すると、ふたりは一瞬で顔を引きつらせた。まさにドン引きである。

そりゃあ、ナマモノだが壊れ物だか定かではない物体は、触れることすらためらわれるだろう。