ルキが通信機を取り出したその時、近くの公園から、誰かが言い争っているような声が聞こえた。思わず視線を向けると若い男女の姿が見える。
困ったような表情の男性に、今にでも泣き出しそうな彼女が怒りながら迫っているようだ。痴話喧嘩だろうか。
しかし、さほど興味がなさそうなルキが電話をかけようとした次の瞬間。女性の目が黄金に光った。光に包まれた男性は、みるみるうちに体が石へと変わっていく。
どういうこと!?何が起こっているの?
驚きのあまり呼吸を忘れると同時に、ルキが素早く私を抱き寄せた。視界を隠すように抱き込まれる。
それは一瞬の出来事で、微かな空気の変化を感じて腕の合間から視線を向けると、ひどく動揺したような彼女は声をかける間もなく駆け出していく。
女性の赤い髪が月夜に照らされ、強く目に焼き付いた。
「待ってください!」
呼び止めたものの、その声は彼女に届かなかった。
完全にその背中が見えなくなった頃、私を抱きしめる腕が緩み、低い声が耳元で聞こえる。
「あれはゴルゴーンだ。人間界で魔力を放つとは見過ごせないな。ミレーナが奴の目を見なくて良かった。人間が見たら、ひとたまりもない」