ケットの案に飛びついた私。
人気店の工夫やこだわりのメニューを勉強するのは有効だ。“食い倒れ旅”という名の現地調査も立派な仕事である。
ケットは人間界の店に興味津々だが、万が一耳や尻尾がバレたら大変なので、泣く泣く同行は断念した。
すると、落ち込むケットを見たヴァルトさんは、くすりと笑って少年を撫でる。
「元気を出して、ケット君。よければ、俺と一緒に魔界の飲食店をまわるかい?向こうの世界は昼に動くのも多少楽だからね。お兄さんが奢ってあげよう」
「えっ、いいの?やった〜!いくいく!」
一気に笑顔が咲いたケット。
黒猫の姿で満足げにヴァルトさんの肩に乗っている。
二手に分かれて情報収集なんて、ワクワクする。都市をゆっくりまわるのも久しぶりだ。なんだか楽しみだな。
私は、まわる店を仲良く決めている様子のふたりを微笑ましげに眺めた後、腕を組んでソファにもたれかかっているルキへ声をかけた。
「ということなので、明日は出かけてきますね。ルキが起きる頃には戻ります。ちゃんとお土産も買ってきますから」
さらりとそう告げた私。
話がまとまり、掃除を再開しようと歩き出した瞬間に袖を引かれた。
ルキが引き止めたのだと気付くと、予想していなかった返答が耳に届く。
「俺もお前と一緒にいく」
ん?今、なんて言った?
人間嫌いの彼とは思えないセリフに目を見開くと、奥で聞いていたケット達もこちらを振り返っていた。
ルキは表情ひとつ変えずに私を見上げている。
「オーナーを任された身として人間界の店の様子を見ておきたい。明日、俺も連れて行け」