ごくりと喉が音を立てた。

妖麗な表情に目が離せない。

ヴァルトさんはヴァンパイアだったのか。あんな鋭い牙は初めて見た。言われてみれば、太陽の光を好まないところも、人形のように白い肌も、思い描くヴァンパイアのイメージそのままだ。

血の味に溺れて舌が鈍った?

たしかにシェフにとって味覚は命だろうが、そんなことが本当にあるのだろうか。


「そういうわけで。お力になれずすみません。他に用がないのなら、お引き取り願えますか」


そう言ったヴァルトさんは、初めて会った時と変わらない穏やかな表情で私たちを見送った。

スカウトの手応えは全くと言っていいほどなく、初日ではっきりと断られてしまった。

帰り道、ルキがぼそりと呟く。


「あの男から血の匂いはしなかった。おそらく、相当の年月、吸血行為はしていないだろう」

「つまり、嘘をついたということですか?」

「あぁ。理由まではわからないがな」


どういうことだ?


きっと、同じ魔物であるルキがいうことは本当だ。

ヴァルトさんは、単に人間界のレストランに興味を惹かれなかったから適当にあしらったのだろうか。それとも、スカウトが本気だと思われなかったのか?

他に理由があるとしたら、なぜ本当のことを言ってくれなかったんだろう。

心のモヤが晴れない私は、どうしても彼を諦めきれず、再び屋敷を訪れる決意をしたのである。