興味津々に見つめていると、彼はそばについていた女性に「もう下がっていいよ、ありがとう」と優しく声をかけて対面のソファに座った。

三人だけの部屋に時計の針の音が響く。


「さて、貴方たちは俺をお探しだったようだけど。魔王様と可愛いお嬢さんが、一体何の御用です?」


にこりと目元を緩めた男性。

見た目通りの落ち着きのある色っぽい声にどきりとしながら、緊張まじりに挨拶をする。


「はじめまして。私はミレーナと言います。連絡もなしに押しかけてすみませんでした。貴方がヴァルトさんですか?」

「うん、そうだよ。ミレーナちゃんか。名前も可愛いんだね」


口説き文句のような甘いセリフを息を吸うように投げかけられ、思わず動揺してしまう。

ヴァルトさんって、結構軟派な性格なのか?

照れもしない彼に、私は言葉を続ける。


「私達は貴方にお願いしたいことがあってここに来たんです」

「お願い?見当もつかないな。俺にできることならなんなりと」

「えっと…わかりやすく言えば、スカウトでしょうか」


きょとんとするヴァルトさん。

私は、視線を逸らさずに本題を告げた。


「ヴァルトさんに、人間界のレストランでシェフをやっていただきたいんです」