「ここだな」


その声を聞き、重々しい門の前で立ち止まった。

繁華街から少し離れた場所に建っていたのは年季の入った洋館で、上流階級の貴族が住んでいそうな品が漂っている。

庭の樹木や雑草は綺麗に手入れされており、広い敷地内は管理が行き届いているようだ。


「ずいぶん雰囲気のあるお屋敷ですね。ヴァルトさんがご在宅だといいんですが」

「ローウィンの情報によると、昼の時間帯はあまり出歩かないらしい。人間界に比べたら魔界はいつも夜みたいなものだが、さらに暗くなった深夜にしか外出しないとなると、ここの主は真性の夜行性のようだな」


ふぅん。日の光を気にせず出歩けるケットではなく、夜を好むルキみたいなタイプってことか。

一体、どういう魔物なんだろう?


ドキドキと胸を高鳴らせながら、門を開けて石造りの階段をのぼった。

呼び鈴を鳴らすと、すぐに中から足音が近づいてきた。やがて、扉が軋む音とともにひとりの女性が顔を出す。

ほっそりとした色白の若い女性だ。服装からして使用人のようだが、そのガラスのような瞳は、今まで出会ったことがないような不思議な感じがした。

何も言わずにこちらをうかがう彼女に頭を下げる。


「はじめまして。ミレーナと申します。ヴァルトさんを訪ねてここに来ました」


突然の来客に戸惑っている様子の女性。

しかし、私の横に立つルキを見た瞬間、驚いたように肩を揺らした。深く頭を下げたと思うと、玄関をバァン!と勢いよく開けて中へと招く。

急ぎ足で駆けていく彼女は、色んな部屋を出入りして慌ただしくしている。たまにティーカップが割れるような音までも聞こえた。

そりゃあ、魔王様が家に来たらビックリどころじゃ済まないだろう。