一枚一枚シャッターをきる。

魔界は建築物の構造も町にあふれるロゴも全て見たことがないデザインで、町に灯るランプや絵の具を混ぜたように何色もの光を反射する噴水が夜闇によく映えた。

心のままにカメラを楽しんでいると、ふと、広場のベンチに腰掛けて長い足を組むルキがフレームに入る。

少し俯いてまつ毛を伏せる彼は、もともと綺麗な顔立ちをしているせいもあるが、そのたたずまいが世界観にぴったりハマっていて、まるで一枚の絵のようだ。

その姿を無意識に写真におさめると、聴覚が優れている彼はシャッター音に気づいたらしい。あごを引いたまま視線だけこちらに向けられる。


「あっ、すみません勝手に。ルキが綺麗なのでつい撮りたくなってしまって」

「綺麗?」


その形容詞は予想外だったようで、噛み殺すように笑ったルキ。「満足か?」と尋ねられ、私は大きく頷いた。

ベンチから立った彼に続き、腕利きの情報屋から仕入れた住所を目指して歩きだす。ふたりの歩幅は足のリーチの違いなのか、かなり差があったものの、ルキは時折さりげなく後ろを振り向き、私を気にしてくれているようだった。

それにしても、優雅に町を進むその姿は“俺の庭”と言わんばかりだ。実際、彼は魔王なのだからあながち間違いではないのだが、ここまで魔界の妖しくも美しい雰囲気が似合う男性はいない。