すっと隣に落ちる影。私の目線に合わせて屈んだルキは、視線の先を追うように覗いた。
「ん…?どれが気になるんだ?」
「へっ?」
つい、間抜けな声が出た。
まばたきをしながら見つめると、ルキは不思議そうな顔をしている。
「そんな目を丸くして、どうした」
「いえ、少し驚いて…。怒らないんですか?」
「怒る?俺が?」
「はい。目的も忘れて趣味に興じようなんて、容赦なく怒鳴られるか、黙って首根っこを掴まれるかのどちらかだと思っていたので…」
すると、ルキは微かに目を細め、視線を逸らさずに答えた。
「初めて見る世界に心が躍るのは当たり前だろう。そんなことで怒ったりはしない。まぁ、かといって本来の目的もあるからな。寄り道は少しだけだ」
冷酷暴君な魔王様とは思えないセリフ。
普段は無愛想でわかりにくいけど、こういうときはちゃんと私の気持ちを理解して付き合ってくれるらしい。
ルキのことをひとつずつ知っていく。彼にとっては取るに足らないことだったとしても、無意識に心が弾んだ。
ベタな例えをすると、不良が猫を助ける場面を見たような…?
ルキに対して怖いイメージを持っていた故に、魔王様っぽくない一面が垣間見えると反応してしまうのだ。