表情ひとつ変えずに答える彼になんとも言えない気持ちを抱いていると、すぐに通信機が鳴った。
画面を覗き込むと、一通のメールが届いている。魔界の文字は暗号のように見えるが、差出人の見当はすぐついた。
「もしかして、ローウィンさんですか?」
「あぁ。魔界の城下町に住むヴァルトという男がヒットしたらしい。経歴は…七十年前までペルグレッドの都市部でシェフとして働いていたようだな」
「すごい!ドンピシャじゃないですか」
早い。想像以上に仕事が出来る情報屋に感動を覚える。
しかも、見つけてくれたシェフが人間界での職務経験があったなんて。レストラン再建のために、なんとしてでもスカウトしなくては。
「ヴァルトさんに会いに行きましょう!元々人間界で働いていたのなら、案外すんなり引き受けてくれるかもしれません」
カバンを担ぎ、今にでも飛び出しそうな私の言葉に頷いたルキは、レストランの扉に向かって手をかざした。彼の藍色の瞳が光を宿した瞬間、晴れ晴れとした青空が見えていた窓の外が、暗闇に一変する。
驚きのあまり言葉を失っていると、ルキはゆっくりと扉を開けた。その先には、さびれた町も見慣れた自然もない。
空は夜闇。ピンクの星に紫の雲。
西洋風の建物が立ち並ぶ世界は、まるでハロウィンの世界に迷い込んだようだった。
これが魔界…!?
「ケット、留守番を頼んだぞ」
「はーい、いってらっしゃい!」