氷のような瞳のルキに口を塞がれ、もだえるケット。

従業員がふたりしかいない理由を理解した私は、腕を組んで小さく唸った。


「この様子だと、人間のシェフを探すのは難しそうですね。魔界に料理人のお知り合いはいないんですか?できれば人間界に精通している方で」


それを聞いたルキは、あごに手を当ててまつ毛を伏せる。


「魔物は本来魔界に住んでいるが、こちらの世界で仕事をしたり、人間に紛れて暮らす者もいる。探せばひとりくらいはいるかもしれないな」


すると、ルキはおもむろに通信機を取り出した。アンテナを伸ばしてどこかへ連絡をとっている。

ケットと共に様子を見ていると、数回の呼び出し音の後、スピーカーの向こうから耳触りのいい大人の男性の声が響いた。


『ルキ様?本物ですか?お久しゅうございます。三年も城を空けて、貴方、今一体どこで何をしていらっしゃるん…』

「ローウィン。仕事だ。“人間界での滞在記録があるシェフ”について至急調べろ。日が落ちるまでにデータを送れ」

『んっ?どういうことでーー』


まだ会話が続いているというのに、ブツ!と通信を切るルキ。相変わらず暴君全開だ。

だが、おそらく彼に悪気はない。この態度も魔王として家臣に指示をし慣れているからなのだろう。命令を下す姿も様になっている。


「あの、今のは?」

「城にいる俺の家臣だ。ローウィンは腕利きの情報屋でもある。調べ物なら奴に頼むのが一番早いからな」

「だからって、こんな無茶振りを…。というより、すごく心配されていたようですが、魔王としてのお仕事は大丈夫なんですか?」

「城は弟に預けてきた。有能な大臣が補佐をしているから問題ない」