盲点を突かれた、と言わんばかりの表情のふたり。
色々とツッコミたいところだが、逆に、なぜ今までこの状態でやってこれたのかが謎だ。
この店は、レストランだというのに“魔王様特製スープ”しかメニューがない。このままでは、破格の設定にしてもリピーターが増えるとは思えなかった。
逆に、ゲテモノ好きには人気なのか?
いやいや、そんな一部をターゲットにした戦略はよろしくない。常連客もいない現状を打開するためには、まずは普通のレストランを目指すのが得策だろう。
「ルキ。ずっと疑問だったんですが、今までシェフを雇おうと考えたことはなかったんですか?」
「いや、初めは人間の料理人を雇っていた。だが、なぜか採用するたびに三日も経たず辞めていったんだ」
おそらく…いや、間違いなくルキのせいだな。
彼に優しい一面があると知った今でもそれが垣間見える機会はなく、普段はクールな面持ちで近寄りがたいオーラを飛ばす悪魔そのものだ。
殺し屋のような目つきに魔界の魔王ときたら、取って食われると思われても仕方ない。
そんな心中を察したように、無言でこちらを見るルキ。
つい怯んだ私とルキの間に入ったのはケットだった。
「ミレーナ、ご主人様を責めないで!これでもシェフが立て続けに辞めるもんだから、自力で料理の勉強をしようとした時期があったんだ…!でも、ご主人様は人間界の文字が読めないから、イライラして買ってきたレシピ本を全部破って燃やしちゃっただけで」
「ケット。もういい、黙れ」