「よかったね、このレストランに引っ越すの許してくれて」
「うん。これで心置きなく働けるわ。そろそろ本格的な営業に向けて準備しないと」
ガッツポーズをして気合いを入れる私の元に、コツコツと足音が近づいた。
テーブル席の隣に腰掛けたのはルキである。
「あっ。見てくださいよ、ご主人様!レストランのアカウントができたんです」
ケットの声に、画面を覗き込む彼。
しかし、翻訳機能を使って文字の羅列を目で追うその顔は険しい。
「“地図から消えた町にひっそりと明かりが灯る、魔界レストラン《レクエルド》近日オープン”?謳い文句は分かるが、後半はどういうことだ?今も営業中だろう」
低い声は、納得がいっていない様子だ。
それを聞いたケットも「ありゃ?たしかに」と首を傾げている。
私は、そんな魔物達に一息ついて静かに告げた。
「そりゃあ、お客さんを呼び込みたい気持ちはありますが、まだ開店するわけにはいかないんです。このレストランには、お客さんが来ない以前に解決しなければならない問題がありますから」
「問題?なんだ、言ってみろ」
ルキは眉を寄せて足を組んだ。
威圧感をひしひしと放つその姿に背筋が震えるが、深呼吸をした私は意を決して答えた。
「ずばり、根本的な人員不足です。料理の知識と技術を持ったシェフが一人もいないなんて、レストランとして成り立ちません」