ぴょこぴょこと尻尾を振る少年。もはや正体を知られた私には耳と尻尾を隠すつもりがないようだ。

可愛らしいシルエットに頬を緩ませていると、ポケットの中で電話が鳴った。

着信は母からだ。


『ミレーナ、ネット見たわよ。こんな素敵なレストランなのね…!住み込みで働くなんて言われた時は驚いたけど、頑張るのよ。あなたのやりたいことを応援するわ』


地元から相当な距離があるこの町で、通いながらレストランのマネジメントをするのは厳しいと判断した私は、家を出ることを決意した。

もちろん、突然一人娘から住み込みで働くと聞いた両親には引き止められたものの、立ち退き撤回に向けた熱い思いを告げると、最終的には私の意志を受け入れ、快く送り出してくれたのだ。

もちろん、魔物達と住んでいることは秘密である。


『たまには電話で元気な声を聞かせてね。そうだ、写真をメールで送ってくれると嬉しいわ。あなたが遠い土地で見た景色を共有できるなんて素敵じゃない。お父さんと一緒にみるから』

「うん、わかった。ありがとうお母さん」


温かい言葉に胸を打たれていると、携帯の向こうから予想外のセリフが届いた。


『あ、そうそう。シグレ君が心配してたわよ?あなた、ちゃんと連絡したの?』

「げっ!」


世話焼きな幼なじみの姿が頭をよぎり、顔をしかめる。

まずい。

あのお節介でやたら過保護なシグレのことだ。

実家を出たうえに魔界の住人と住み込みで働いているなんて知られたら、レストランに乗り込んで連れ戻そうとするかもしれない。


「し、シグレには内緒にして!」

『ふふ、わかったわ。私からうまく言っとくわね』


通話をきり、息を吐く。

危ない危ない。“第二の母”に出動されたら、せっかくのレストラン再建計画がパーになるところだった。