するとその時、魔王様は腕を組んでこちらを見下ろした。
「ところで、お前の名前は…ミレーナだったか」
「え!合っていますが、どうして私の名前を?」
「ケットが枕元でお前の話ばかりするものだからな。うるさくてかなわん」
寝ている魔王様の部屋に突撃し、写真片手に私の名前を連呼するケットの姿が目に浮かぶ。
早朝に叩き起こされて不機嫌だったであろう彼の表情も、ありありと想像出来た。
「そういえば、魔王様のお名前はなんというんですか?」
「ルキだ。好きに呼べ」
ちゃんと教えてくれるんだな。
会った時よりも少しだけ、人間嫌いの悪魔が歩み寄ってくれている。
「ルキ様でいいですか?」
「なぜお前がかしこまる」
「いや、だって魔王様に失礼な態度はとれないでしょう?」
「魔界を出た今の俺は、魔王ではなくただの店主代理だ。敬語で敬う必要はない。お前は《レクエルド》の救世主だからな。ルキと呼べば手を貸すくらいはしてやろう」
驚いた。こんなことを言われるなんて。
彼は思ったよりも寛大な心を持ち合わせているらしい。それなりに威張り散らしているイメージだったが、崇め敬ってほしいという意思はないようだ。
さすがに、綺麗な外見をしていても年齢不詳の魔王様に馴れ馴れしくタメ口で話しかける勇気はないので、名前で呼ぶことだけは承諾した。