脱兎の如く去る背中。
役人達は町の外に停められてあった車に乗り込み、遠ざかっていく。
その様子を黙って見つめていた私は、車が森の奥に見えなくなった瞬間、風船がしぼむように肩の力が抜けた。
「すみません魔王様。私、とても勝手なことを言ってしまいました」
「構わない。だが、今さら撤回は許さないぞ」
「もちろんです!自分で売った喧嘩ですから、ちゃんと責任とりますよ」
にこやかに答えた私は、ふと彼の手元に視線を落とす。
「あの…手、大丈夫ですか?痛かったですよね」
不安に思い、そう尋ねた私。
しかし、当の本人は涼しい顔をしている。
「もう傷は消えた。お前が気に病むことはない」
傷は消えた?まだ数分しか経っていないのに?
そのセリフに驚き、思わず彼の手を取ると、私を庇って出来たはずの傷が跡形もなく消えていた。
しかし、地面に落ちた血は本物で、先程の出来事が現実であったことを示している。
「本当に人間じゃないんですね…」
「当たり前だろう。誰に向かって言っている」
この高圧的な態度。
少し心の距離が縮まったと思っていたが、やはり彼は正義のヒーローではないようだ。助けてくれたのも、気まぐれだったのかもしれない。