目の前に影が落ちた。
マントのはためく音に、はっ!とする。
視界に映ったのは紫紺の髪。気配もなく間に割って入った彼は、素手で役人の剣を掴んでいた。受け止めた手に力が込められた瞬間に剣は音を立てて砕け、地面に数滴の血が落ちる。
「ひぃっ!」
「あ、悪魔だ!なぜお前がここに…!」
私を庇うように立つのは魔王様だった。
役人達は、そのオーラに圧倒されて青ざめている。腰を抜かして座り込む敵を睨みつけた魔王様は、やがて静かに振り向いた。
「こんなところで何をしている。帰ったんじゃなかったのか」
初めて会った時と変わらぬトーン。感情を悟らせない低い声に、おずおずと答える。
「えっと…町を出ようとしたところでこの人達に会ってしまって。魔王様こそ、どうしてここに?」
すると、彼は胸元から一枚の写真を取り出した。夜の闇を背景に光り輝くレストランが映っている。
「ケットに叩き起こされて、これを渡された。お前が撮ったものなのだろう?」
「はい、そうです。…気に入りませんでしたか?」
「いや。とても綺麗だ。あの日見た景色と似ている」
「あの日?」
「俺がライアスと出会った日だ」