「どうして魔物を悪く言うんですか。あのふたりのことを何も知らないくせに」
気付いた時には心の声が漏れていた。
振り向いた役人達は、驚いて足を止める。
「彼らはとても優しいです。お客さんを喜ばせようとする気遣いも、相手を思いやる心もあります。何度立ち退きを迫っても結果は変わりません。彼らはあのレストランを捨てたりしないでしょうから」
「なんだと?」
その瞬間、目の前に剣が突きつけられた。
思わず、喉がひゅっと音を立てる。
「人間のくせに何を言っているんだ?お前、魔物どもの手下だな?」
「まさかこの少女は、奴らに籠絡されたのか?」
剥き出しの敵意。
どうやら、私を魔物の仲間だと認識したらしい。術にはめられたか、洗脳されたか、おおかた彼らの想像はそんなところだろう。
だが、反論する気はまるでなかった。
私は、ヒトではない彼らの優しさを知ってしまった。恩返しをしようとする魔王様の不器用な心に触れてしまった。
ひとりの役人が、不信感をあらわにしてこちらに詰め寄る。
「なぜ君は魔物らをヒトと同じように言う?奴らは生きる時間も感覚も力も全てが違う。あの悪魔は自分より弱い立場の人間を見下しているんだ。分かり合えるわけがないだろう」
「いいえ。魔王様は心の温かい方です。理不尽な立ち退きを迫る貴方達よりよっぽど」
カッ!と役人の瞳孔が開いた。
逆鱗に触れたように剣を振りかざす男。
恐怖でぞくりと体が震え、逃げることさえできなかった。
まさか、二度目の人生もこんな形で終わる羽目になるなんて…!
思わず目をつぶり、すくみながら腕で顔を隠した、その時だった。